2022.11.24

地域材のローリングストック体制が短納期での大型木造建築に役立つ

鉄骨造から地域材を用いた木造仕様に変更

物件】ゆずりは保育園(徳島県徳島市)
施工】株式会社 誉建設(徳島県徳島市)

住宅業界がウッドショックの影響を色濃く受ける中、BCP(事業継続計画)の一環としてコロナ禍以前から主要材料のローリングストックを実践し、住宅の安定供給に努めてきた誉建設。今回、施工を手掛けた「ゆずりは保育園」でも、ストック材の活用により、短い工期で地域材をふんだんに使用した建築を実現している。

トラス工法を用いた西棟。柱をなくすことで大空間を実現した。施設内の建具は徳島県内の専門業者に外注して木で製作

徳島県で40年にわたり注文住宅による木の家づくりを推進してきた誉建設。2019年に経営戦略の観点からBCPを策定し、構造材に用いる木材について、徳島県産を中心に100%地域産材の活用に舵を切った。

高品質な構造材を得るために切り旬に伐採。じっくりと時間をかけて乾燥した上で、住宅建築に必要な約1年間分の木材のストックに努めており、2021年3月には徳島県企業BCP制度で認定を受けている。

今回、誉建設が施工を手掛けた「ゆずりは保育園」は、徳島初の障害児特化型認可保育園として、合同会社ハビリテが2022年4月に開園したもの。施設内には児童発達支援事業所「ゆずりはplus」も併設している。設計監理はかたちとことばデザイン舎が担当した。

東・北棟の保育室は登り梁架構を採用。各部屋の床材は樹齢75年以上の大径材で統一している

誉建設の鎌田晃輔社長が建築主、設計事務所と以前から付き合いがあり、指名を受ける形で施工を受注したが、当初、設計事務所が提案したのは鉄骨造だったという。

「当社は、1年間に主要材料として使用する木材約300㎥の1.5割程度を徳島県の製材業者である阿波林材にストックしていただいています。コロナ禍でちょうど一般住宅の工期が遅れ気味だったこともあり、木材を調達できる見込みがありました。そこで『ぜひ地域材を使ってつくりましょう』とご提案したのです。オーナーのご実家は徳島県のゆず農家で、スギの名産地のご出身。自然の木を用いることについて理解を得られたことも大きかったですね」と鎌田社長。こうして、木造でのプロジェクトがスタートした。

「ホマレノ森プロジェクト」の事業スキームを用いて建築

誉建設は、2017年に発足した「ホマレノ森プロジェクト」を主軸に事業を展開している。地域に根付いた企業として事業を長く継続するためには、木材を消費するだけでなく、地域や自然に対して循環と還元が必要であると考え、打ち出したプロジェクトだ。

具体的には、「家づくり」、「人づくり」、「森づくり」「暮らしの質づくり」の4つを基本コンセプトに、それぞれが共創・連動しながら活動できる仕組みを構築。川中の製材所を中心としたネットワークで計画的に家づくりを行っており、今回の建築もこのプロジェクトの事業スキームを用いて取り組んだ。

建物は中央に園庭を配したコの字型の平屋建てで、構造材にはストックしていたスギとヒノキを使用。

「徳島県内では柱材などに使用する木の生産量が少ない」(鎌田社長)ことから、誉建設では産地を四国全体でとらえており、土台と柱は愛媛県産、梁桁は徳島県産材と高知県産材を用いている。

極力、一般的な住宅用材を使用した設計とし、東・北棟の保育室では登り梁を、西棟ではトラス工法を採用するなど、建物に応じて異なる架構形式を用いたのが特徴だ。

誉建設が供給する住宅は全棟、長期優良住宅を標準仕様としている。今回のプロジェクトもその延長で性能の確保に努めている。

通常、構造計算については自社で行っているが、今回は規模が大きく、建物も特殊であることから外部の構造設計事務所に依頼。許容力度計算は行わず、建物を3棟に分割することで揺れに耐える構造としている。

外廊下のスギ板には天然成分を使用した木材防護保持剤を塗布している

内装にも地域材をふんだんに使用 

構造材以外にも木材をふんだんに使用している。

誉建設は住宅でも樹齢75年以上の大径材を幅の広い床材に使用しており、今回の建物でも床材はすべて大径材で統一。サッシと建具は徳島県内の専門業者に外注して木製で制作している。 

造作は誉建設の自社大工が担当。自社大工の育成を推進し、建築工程の内製化に努めている誉建設では、本社と同じ町内に200坪の加工場を所有しており、自社職人が手刻みや木材加工技術を習得する場になっている。

家具の造作も自社職人が手掛けている

「専用の加工機も徐々に増やし、通常は家具や建具も自社で製作しています。今回は建築スケジュールなどの関係で造作のみ自社で手掛けることになりました」と鎌田社長。自社大工が常に学びながら活躍できる場を整えることで、顧客に自然の木を使った付加価値の高い商品を提供し、ひいては会社の利益にもつなげているという。

「施工会社がよかれと思い提案しても、最終的に採用を決めるのは設計事務所です。今回、木を最大限に生かした建築を実現できたのも、オーナーを含む三者間で話し合い、協力し合える関係性を築いていたからこそ。中大規模建築を円滑に進めるには、関係者同士のコミュニケーションが不可欠です」と鎌田社長は語る。

設計監理業務をサポートし、3カ月という短納期に対応

ゆずりは保育園が着工したのは2021年12月下旬。翌年4月の開園に間に合わせるため、3カ月というわずかな工期で対応する必要があった。

そうした中、建て方は自社大工を中心に平均10名で対応し、スピード施工を実現。誉建設の設計スタッフが現場に常駐し、設計監理業務のサポートを行ったことも、工事を円滑に進めることができたポイントだと鎌田社長は振り返る。

「非住宅建築はこれまでも手掛けてきましたが、新築の木造平屋でここまで大規模なものは今回が初めてです。何より、阿波林材の協力を得て日頃から地域材をローリングストックしていたからこそ実現できたと言えます。木材は伐採から乾燥まで、使える状態にするまでに最低一年かかります。地域の工務店が地域材を用いた中大規模木造建築に取り組むにはサプライチェーンの構築が不可欠であり、木材をストックするしかないことも今回のプロジェクトを通して学ぶことができました」(鎌田社長)。

広葉樹の森を増やすために針葉樹の森を整備

誉建設では、「ホマレノ森プロジェクト」の一環として、2022年春から徳島県神山町で自社の森づくりを進めている。森林関係者の協力を得て、2023年までに3haほどの社有林を整備予定だ。

「徳島県に広葉樹の森を増やしたいとの想いからスタートした取り組みです。家を1棟建てるごとに森に広葉樹を3本植える“1棟3本活動”を掲げ、プロジェクトの循環を促します。現在、広葉樹は九州などの材木店からランバーの状態で仕入れていますが、将来的には、自社の森で育てた木を使って家具を製作できればと考えています」(鎌田社長)。

さらに、自社の森をフィールドに、イベント・セミナーの開催や、社員の人材育成も行っていくという。

「ホマレノ森プロジェクト」の活動の一環として、林業家と一緒に「木こり体験ツアー」を開催

今回施工を手掛けたゆずりは保育園とも引き続き交流を続ける考えで、木育に関わるプログラムなども提案していきたいとしている。

「障害を持つお子さんたちと木を使って一緒にできることを考えていきたいと思っています。木に触れ、木工の技術を習得できれば、将来的な自立支援につながるかもしれません」(鎌田社長)。

建築事業を通じた子どもへの教育支援も「ホマレノ森プロジェクト」が掲げる目的の一つ。活動を通じて、地域に必要とされ続ける企業を目指す考えだ。

夏休み「子ども木工教室」を社員大工が中心となり開催

誉建設 鎌田 晃輔 代表取締役

当社はBCPの一環として環境・防災への配慮から構造材は100%地域産材を使用し、ローリングストックによる木材確保に努めてきました。

ウッドショックの影響で住宅業界に混乱が生じる中、「ウッドショックと木材のローリングストック」というタイトルで当社の木材調達の考え方をFacebookで発信したところ、木造での非住宅建築を検討されていた事業者の方から問い合わせがあり、受注に至ったケースもあります。

今回の建築主もそうですが、社会的意義のある取り組みに関心のある方々は木造建築に高い関心を持たれる傾向にあります。これからも、社会貢献の一環として、福祉関連施設のプロジェクトに関わっていきたいと考えています。